「まぁ、さ。落ち着いてよ」
震えながら涙を流す佳代子に、神谷はそっと近づいた。
「あいつと一緒に死んだって、なにもいいことないだろ?もっと別の方法をさ…、」
「うるさい……!」
どうにか宥めようと自身も身をかがめて、彼女のナイフを回収しようとしたときだった。
逆上した佳代子がそれを拒否し、ろくに神谷のほうなど見もしないで、ナイフを乱暴に振り回した。
「…く、」
その切っ先が神谷の左頬をかすめる。
「うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさい…。あんたのせいよ…、あんたのせいで…ゥぁああ!」
もう一度、今度は彼の右頬を佳代子のナイフが切りつけた。
「あんたが邪魔しなければ…。いまごろ…、今頃わたしたちは一緒になれてたのに」
「……。ってぇ、」
両頬からぽたぽたと赤い血が流れ、神谷の靴のつま先に垂れた。
どうして関係のない自分がこんな目にあっているんだろう、と。傷に注意深く触れながら神谷はため息を吐く。
暴れている佳代子を抑えようにも、また逆上して飛び降りでもされたら厄介なので、彼女の興奮がおさまるまでその場で暫くたたずんでいた。


