場の雰囲気に似つかわしくないほど、冬の空にしてはめずらしい明るい太陽が、屋上に降り注いでいた。
ぎらりと刃先がその陽光に反射したカッターを、佳代子は後ろ手から前にだして、にやりと笑みを浮かべた。
「…っ!」
やばい、そう本能的に感じ取った神谷は、屋上の入り口から彼らのほうへ向かって一直線にはしりだす。
アキラにさっきまでの笑顔はなく、ただその残骸だけが、凍りついたように彼の顔に張り付いていた。
なにも言えず、穴のあくほど佳代子のその笑みを凝視している。
「だいじょうぶだよ。わたしもあんたのあとにここから飛び降りるから」
先刻の狂気に満ちた笑い顔を瞬時に一変させて、今度は天使のように優しげな微笑みを彼に向けた佳代子。
「だからさ、もう、わたしだけをみてよね」
刃先を一気に振り上げて、瞳孔がこれでもかというほどに開く。
(…やばい、間に合わない!)
神谷が二人に駆けよるまでの、ほんの数十秒のその瞬間が、まるでスローモーションのように長く感じられた。
「…し………、ね…ェ…!」
佳代子が女とは思えないような低い呪いの叫びをあげて、渾身の力をこめて刃先を振り下ろす。


