神谷は、付属大学の4年生。
5つも年は違うけれど、そんなことを感じさせないくらい、私と彼の会話はスムーズだった。
彼が知識と教養に優れていて、話のネタに事欠かなかったからでもあるけれど、なによりその憎めない笑顔と、気さくな性格がどんな相手をも居心地良くさせる。そんな人だった……。
外国産の煙草の紫煙。独特の甘いそれの隣が、私の新しい居場所。
「フウはさ、ずっと、ずっと、俺のものでいてよ」
付き合って1年が経ったころ。当り前だよね、とでも言わんばかり、神谷は優しい笑みを称えて、私の顔を覗き込んだ。
『ふふ、なに、それ。わたしは誰のものでもないよ』
「ふーん。そっか」
私は反対に、冗談でしょ、とでも言いたげに、笑いながら答えた。
そうしたら、彼の顔は暗雲のごとく一気に曇ってしまった。
みるみるうちに哀しげなそれに変わっていく様子に、なんだか尋常ではない、一種の異質さを感じて、無意識に背筋が震えた。
『…なに、暗い』
「え、あぁ。別に。ただね、フウの居場所がおれの隣だけになったら、どんなにいいかと思って」
そういって、ハッと我に返ったように、いつもの微笑を浮かべようとする。
私のことが本当に愛しくて、それを思い切り優しさにこめたような、いつものその笑顔を……。
けれど、どこか上の空で呟いたときのその表情は、笑ってこそいたものの、どこかひきつっていて。
――――胸騒ぎがした
なんの確証があったわけでもないけれど。
初めて彼のことを、怖い、と感じた。


