forget-me-not








「ちょっと、待ってよ」


今日もやり過ごして通り過ぎようと、足を動かした途端、さっきよりも緊張感のある声色で男は私を引きとめた。




「なんですか?」

「あのさ、桜、きらい?」

「え…」


まったく予想だにしなかった話を振られ、私はいぶかしむように眉を寄せる。

と、男はその反応を楽しむかのように嬉しそうに話し始めた。




「だってさ、いつもいつも鬱陶しそうに花びらを眺めてるでしょ?こんなに綺麗なのにさ。それに君にとてもよく似合うのに」


そういって男は、私の頬にはりついていた一枚の花びらをとった。

その一瞬の指先の温かさのドキリとして、同時に戸惑った。

なにしろ桜に似合うなんていう感想を持たれたのは初めてだったし、初対面でこんなに気さくにペラペラと喋りかけられたのも初めてだ。




「ね、笑ってみてくれない?」

「……」

「君の笑顔、すごく見てみたいんだけど」