「風(フウ)だけど」
なんでこんな場所で、見知らぬ男の子に名前を教えてるんだろう。
言ったあとで少し後悔した。
「フウ」
『…なに』
「また、今度」
フワリ、耳元にそんな呟きを残して。
黒川 夜はポケットに両手を入れたまま、軽い足取りでどこかへ消えてしまった。
(だれ…)
その華奢な後ろ姿は白日の元に曝され、昼間の太陽が似合わない。
今にも、消えてしまいそうな程に。
長く伸びた黒いズボンの足と、黒髪だけが、淡く色を主張していた。
(黒川、夜…)
顔は見えなかったけれど、すれ違い様にかけられたソレは少し、優しかった気がした。
――私と彼の、出逢い


