forget-me-not








「っ、返して」


彼の神々しいまでのオーラが辺りに張った空気の膜をプチン、破って、

私は彼に詰め寄ると詩集を奪い取る。




「勝手に人のもの、触らないで」


いきり立つのもみっともないと思い落ち着いた面もちで、だが憤慨顕わに彼を睨んだ。




『…ごめん、ね』


ゆっくりと、嘲笑うように。

彼は無表情のままに、黙って一連の私の動作を見ていた。

その妙に色気のある話し方に、危うくまた気をとられてしまいそいになる。




「誰」


声色が弱々しくならないように、しっかり張った声で、強く。

警戒しながら精一杯に彼の顔を睨めつけ続ける。




『黒川、夜』



(クロカワ、ヨル…)



『キミの名前は?』


相変わらず海底に漂う青色のような瞳と、同じくそこから湧き出るような声に足がぐらついた。