ハラリ、目にかかった黒い前髪が風に揺れて。
黒に強調されたその奥の瞳が、一層深くなった。
私はなんだか恐くなって、それと同時に目を逸らしたら負けのような気がして。
と、後ろに隠していた彼の右手が徐に前に現れた。
その手には…
『恋愛はポタージュのようなものだ。初めの数口は熱すぎ、最後の数口は冷めすぎている。byJeanne Moreau』
私の詩集が握られていた。
『印がついてる』
彼はそこをゆっくりと読み上げて、血の通っていないような細い指で開いたページを指差す。
(…私に、言ってるの?)
妖精か悪魔のような彼の容貌と、ジワリ、伝わるような低くも高くもなく現実味のない声色。
私は何故か目眩がして、頭が上手く回らなかった。
『この言葉が好きなの?』
ページの上から上げられた彼の顔。
その眼はしっかりと私の瞳を射抜いた。
(なんなの…)
その眼に見つめられると視線が離せなくなって、
足は地面に凍りついたように棒立ちになる。
美しすぎるそれと、彼の背後から感じられる悪のオーラが相俟って、
言い表しがたい魅力を放っていたから。


