『知らないよ、そんなこと。…私に聞かれても、』
夜くんのペースに振り回されっぱなしで、私情けないな。
呆れてそう言い放てば、彼は少し俯いて声を落とした。
「本当は…」
『……、』
「わからないことだらけなんだ、全部」
『……、』
「なんでこの世界に僕という半端な存在がいるのかも、人間のことも、恋愛という感情も…
…キミのことも」
俯いていた顔をあげて、私をじっと見る。
「そう、一番わからないのがキミという存在について、」
歪められた表情は、未知の生き物でも眺めるように私を見ていた。
けれど、私も全く同じ気持ちだ。
(…私が一番わからなくて困ってるのは、夜くんという存在だよ)
「そうだね、どうして僕は人間の中でもキミに興味が湧くんだろう」
自問自答のような独り言を呟きながら宙を見つめる。
今日の夜くんは口数が多い。
「フウ、どうしてか教えて」
すっ、となぞるように触れられたのはさっきの赤い痣。
夜くんは私にそう懇願しながら観察するように痛々しいそれに触れて、どこか憂いを帯びた顔をする。。
わからなくて苦しい、悲しい、そんな思いが何故だかひしひしと伝わってきて、私は彼に初めて同情に似た気持ちを抱いた。
(…夜くんは、空気不足の魚みたい)
陸にあがってみたくて、喘いで、もがいて、泳いでいる。
一見見た目には静かだけれど。
魚に空気なんていらないのにね。
それを知ったら、溺れてしまうのにさ。


