サーッ。
私たちの間にさっきから傍を騒がしく舞う風が一つ、通りすぎる。
私たち――私と、彼――私と、男。
「、」
『、』
ジ、と見つめ合うお互いの瞳は、少しも揺れない。
帽子を握って垂れたままの私の腕も、動かない。
両者とも身動き一つ、しない。
音をたてるのは風が空気を切る音と、
この小さな「二人の空間」の外側からする人々の笑い声。
(あおい…)
そう、青かった。
彼の瞳は海底の暗闇のように深く、深く、沈むように、美麗で
濃く暗いブルーが澄み渡って、光っていた。
けれど同時に底冷えするように冷艶で冷徹であった。
「、」
私が動かなかったのは、動けなかったから。
その何の情動も感じられないような、それでいて美しすぎるその瞳に、捕らえられて。


