唯一悪魔らしいのは、人並み外れたその顔立ちである。

 滑らかな青白い肌。鼻梁の通った鼻と、形の良い真っ赤な唇。櫛けずればそれなりに整いそうな、艶のある黒髪。

 光を返さない黒の瞳は、底のない深淵を覗き込む心地にさせ、背筋がぞくりと波毛立った。

 勿論それだけで彼を“本物の悪魔”だと信じる程、僕も世間知らずではない。彼は象徴としてわかりやすいそれを上げただけらしく、僕がどう思おうと、頓着ないようだ。

 そして目立つ外見とは裏腹に、存在はひどく希薄だった。

 うっすらと口角を上げて放たれた言葉を、聞き逃してしまいそうになった程に。

 彼は世間話をするような気安さで、でも興味を引きたそうに思えない素っ気なさで、こう言った。

「あなた、戻りたい過去があるでしょう」