しかしケータイが鳴った為、すぐに口を外した。

ケータイに表示されている名前は、引っ越す前にいた街の友人だ。

小学生の頃、近所に住んでいて、仲が良かった。

絵を描くのが得意で、高校もそっちの専門学校へ進んだことを真名は思い出しつつ、ケータイのボタンを押した。

「実花? どうした? こんな朝から」

懐かしい友ということで、真名の声のトーンと機嫌も上がる。

「…真名、お願いがあるの…」

しかし電話の向こうから聞こえてきた声は、悲しみに満ちていた。

「ん? 何だ?」

だからあえて、優しい声を出した。

「…っ! 処分して欲しいのっ…! このスケッチブックを!」