真名は振り向かずとも、魅弦がぞっとするような妖艶な笑みを浮かべていることに気付いた。

「ではその時の為に、小遣いを貯めておくことにしよう」

「それは嬉しいことで。…ああ、お客さんのお名前を聞いても?」

真名はグッと歯を噛み、振り返った。

「真名だ。神代真名」

「良きお名前で。しかし…皮肉なお名前でもありますね」

一瞬顔を歪めた真名だが、すぐに苦笑する。

「そうだな。私もそう思う。―ではな」

「はい、また」

そして今度こそ、店を出た。

外に出た真名は、改めて店を仰ぎ見た。

真っ赤な夕日に照らされ、店は不気味な影を生み出していた。

その影から逃げるように、真名は駆け出した。