「………あたしだけの、悠太でいてよ――――」



悠太の裾をギュッと掴んだ。

涙が溢れそうで、でもそんな顔を彼に見せたくなくて俯く。


地面にぽとっと一滴が落ちた。




「……薫」



悠太は薫をそっと抱き締めた。



「――――俺も、俺だけの薫でいてほしいし、薫だけの俺でいたい」



拘束を若干緩め、片方の手で俯かれた薫の顔を無理矢理上げさせた。



「でも、きっとそれは叶わないと思う」



「………」



「俺―――いや、俺たちはballoonをもっと人気にさせたい。俺たちの歌をみんなに聞いてほしい。だから、『薫だけの俺』じゃいかないと思う。でもな…―――」



そう言うと、袖を掴む薫の左手を自分の口にあてた。


唇の感触は、薬指から広がった。

そこには、先日悠太からもらったエンゲージリングが輝いていた。



「俺の気持ちは全部この中にある」



目を閉じた悠太は今もなお、薬指に口をあてている。



薫には、その瞼に隠された瞳が澄んでいることはわかっていた。




「俺の全て、ってわけにはいかないけど……、俺の気持ちは全部薫のものだって言ったら不十分かな?」



微笑んで、首を傾げた悠太を薫は愛しく感じてしまう。