エルタニン伝奇

ラスはぎゅっと、腕の中のメリクを抱きしめた。
このような役立たず、どうなろうとどうでも良かったのに、何故今になって躊躇うのか。

「ラ、ラス様・・・・・・。わたくしは・・・・・・氷の封呪から解き放たれた後、大きな力によって、エルタニンまで飛ばされたんです。そのとき、記憶も全て失いました。今ならわかります。きっと、わたくしのコアトルが・・・・・・助けてくれたんです。身体だけでも、故郷に帰してくれたのだと。聖女宮での生活は、辛いこともありましたが、サダルスウド様は気にかけてくださいましたし、ラス様の元に上がってからは、というか、最近は、幸せでしたよ。いざとなれば、ラス様は、お優しかったですもの」

「何を言っているんだ。俺はお前に、優しくしたことなどない」

別れの言葉のようなことを言うメリクを押しのけ、ラスは腰の宝剣を抜いた。
切っ先を、サダクビアに向ける。

「サダルスウド。本当にこれが、呪いの解放なのか? 解放、というからには、すでに成されているような気がするが。サダクビアが、氷から出た時点でな」

「・・・・・・あらゆる呪いの解放、でしたでしょう。確かに氷の封呪もその一つ。それだけではありませぬ。双子、というもの。それも呪いです。そして二体のコアトルも。解放---‘全てを断ち切る’のですよ」

ラスの構えを見、サダルスウドは彼の意思を読み取った。
説明を終えると、息を整え、小さく呪(しゅ)を唱える。
魔方陣が、再び淡く発光し始めた。

『あ、兄上・・・・・・。何故兄上が、わらわに剣を向ける? 呪いの解放というなれば、わらわと兄上が組んで、今度こそにっくき神官どもを根絶やしにしてやろうではないか。血と闇、それこそが、正しい神託の解釈であろう?』