エルタニン伝奇

ゆっくりとメリクに手を差し伸べるサダクビアに、メリクの震えが大きくなる。
サダクビアから逃れるように、ぎゅっとラスにしがみつく。
その態度が、さらにサダクビアの気に障ったようだ。

『馴れ馴れしく我が兄上に寄り添うでないわ!』

サダクビアが怒鳴ると同時に、彼女の後ろの氷が砕け、ラスとメリクに襲いかかる。
ラスのコアトルが、再び翼を羽ばたかせ、二人を守る。

ぎゃっ! と一声鳴き、コアトルは下半身を振ってサダクビアに襲いかかった。
今までも敵意は示していたが攻撃しなかったのは、一応ラスに直接的な攻撃がなかったからだろう。
だが今回の攻撃は、サダクビアはメリクを狙ったのだろうが、結果的にはラスも巻き込んでいる。
そのため、コアトルは攻撃に転じたのだ。

「!!」

いきなりの反撃に、サダクビアは驚きながらも身軽に飛び退り、コアトルから逃れる。

「コアトル! よせ、落ち着くんだ!」

ラスの声に、コアトルは宙で動きを止めた。

「お前がこいつの身体を取り返したら、こいつはどうなる。そもそも、今ここにいるこいつは何なんだ? お前のコアトルは・・・・・・?」

叫ぶラスに、サダクビアは当然のように言う。

『わらわがその身体に戻った瞬間、そやつもコアトルも消えるのではありませぬか? いや、コアトルはどうであろう。一応このコアトルも、兄上のと同じ、特別なコアトルじゃからのぅ。そやつについては、心配ご無用。わらわが戻っても、まだ意識があるようなら、それこそわらわが喰らい尽くしてくれる』