エルタニン伝奇

『わらわが産まれたとき、コアトルは二体現れたそうじゃな。もっともそれは、最近になって知ったのじゃが。わらわは、付き従うサファイアのコアトルがおる故、わらわこそがエルタニンの世継ぎと思うておったに、兄上にもコアトルがついておるのじゃな』

「産まれてすぐに氷に封じられたにしては、よくエルタニンのことを知っているな」

どうも、このサダクビアに‘兄上’と言われるのは不快だ。
サダクビアは、また凶悪に口角を上げた。

『わらわの身は、エルタニンにありましたからの』

「やはり、そうか・・・・・・」

サダルスウドが、サダクビアを睨む。

「そなたのその身は、コアトルのものじゃろう」

サダルスウドの言葉に、サダクビアは声を上げて笑った。

『その通り。兄上に世継ぎのコアトルがついており、わらわは氷に封じられておる。ということは、神官どもは、わらわを初めから無き者としたわけじゃ。母君の出産に立ち会った者がいなくなれば、そのように事が進むからの。おそらく、もうわらわの事実を知る者は、そこなサダルスウドのみ。違うか?』

険悪な視線に、サダルスウドは口を引き結ぶ。
肯定すれば、その瞬間に首を飛ばされそうだ。

『そのような神官の勝手に、むざむざ従うわらわではないぞ。わらわは初めこそ、兄上に会いたいという気持ちだけで、氷の封呪を解いた。ほんの幼子じゃ。双子であったからこそ、わらわの中には兄上の存在が、本能としてあった』