「これが・・・・・・氷の美姫・・・・・・」

目の前の美姫は、己と同じ年頃だろうか。
薄衣一枚からは、白い素肌が透けている。
爪先まで届く長い髪は、不思議な銀色。

「生きて・・・・・・いるのか?」

吸い寄せられるように、足を踏み出したラスの肩を、サダルスウドが掴んだ。

「ラス様・・・・・・。これは・・・・・・この姫君は」

苦しげに言うサダルスウドは、顔色も悪い。
何か、恐れおののいているようだ。

再びサダルスウドが口を開こうとしたとき、突然コアトルが激しく鳴き出した。

「どうした。おい、落ち着け。大丈夫だ」

ラスが急いでコアトルの身体を撫でる。
なおもぎゃ、ぎゃ、と暴れるコアトルに呼応するように、ヴォルキーが一際大きく吠え、地を蹴って姫君の眠る氷の柱に飛びかかった。

「あああっ!!」

同時にメリクが叫び声を上げ、頭を抱えて崩れ落ちる。

何が何だかわからないラスの前で、宙に舞ったヴォルキーの身体は、氷の柱から放たれた凄まじい光に切り裂かれた。
氷の窪み内は、一瞬でヴォルキーの血と肉片で染まる。

「何なんだ? おい、大丈夫なのか? どうしたんだ」

ラスは足元に蹲るメリクの肩を掴み、乱暴に揺すった。
ヴォルキーやチーリェフ嫌いが引き起こした恐慌状態という単純なものではない。
メリクは顔面蒼白で、苦しそうに歯を食いしばっている。
ラスに揺すられ、力なく倒れ込みそうになる。