「そうだ、あいつは・・・・・・」

メリクがいないことに気づき、ラスは立ち上がって、もう一度辺りを見渡した。
上空にいたときと違い、視界は明瞭なのに、メリクの姿は見えない。

「くそ。あいつ、白いから、その辺と同化してるんじゃないのか」

苛々と言うラスに、サダルスウドがゆっくりと立ち上がりつつ口を開く。

「私が無事なのですから、サダルメリクも無事でしょう。あの者も、トゥバンに選ばれし者。今回のことにも、きっと無関係ではありますまい。となれば、先に向かったのかもしれません」

「先・・・・・・。氷の美姫のところか?」

頷くサダルスウドについて、ラスは氷の大地を歩いた。
足元の凍り付いた骨が、ぱきんと軽い音を立てて砕ける。

氷の壁に大きく入った裂け目に近づくと、少し入ったところに、メリクの姿があった。
怯えたように、傍の壁に寄り添っている。

「どうした」

ラスが駆け寄ると、メリクも、たたた、と彼に駆け寄ってきた。
震える手で、先を示す。

氷の裂け目は、遠目には壁に走った亀裂のようだったが、近づいてみるとかなり幅もある。
洞窟というほど奥行きはないが、それは大きな窪みのようだ。
コアトルでも、余裕で収まる。

その奥から、低い獣の唸り声が聞こえてきた。
ちょっと足を踏み込めば、簡単に奥の壁に到達する。
そこには毛を逆立てて、壁に向かって唸るヴォルキーの姿があった。
サダルスウドが乗っていたヴォルキーだ。

ラスはヴォルキーが敵意を向けているものに目をやり、言葉を失った。
ヴォルキーの前には、大きな氷の柱があり、その中には、一人の美しい姫君が眠っていたのだ。