「確かにサダルメリクは・・・・・・変わっておりますな。ナリも普通ではありませぬし。しかし、神殿にいたころは、これといって妙なところは、ありませんでしたよ」

「お前は、どこから来たのだ?」

サダルスウドの言葉を受けて、ラスがメリクに問うてみる。
が、メリクはまた、ふるふると首を振った。

「全く記憶がないのです。自分が誰なのかはもちろん、何故エルタニンの海岸にいたのかも」

いろいろ妙なことはあるが、これといって氷の美姫に繋がる何かがあるようにも思えない。
ラスはちらりとサダルスウドを見た。

「私にも、わかりませぬがね・・・・・・」

ラスの視線に、サダルスウドが困ったように笑う。

「でも、サダルメリクが北の海岸に現れたのは、トゥバンが教えてくださったのですよ」

これにはメリクも驚いたように、サダルスウドを振り返った。

「サダルメリクを拾ったのが私というのは、偶然ではありません。あの日、私の夢にトゥバンが現れ、北の海岸に行くよう仰いました。そのお言葉に従い、海岸に行ってみると、小さな白い女子(おなご)がいたのですよ」

「こいつには、トゥバンがついてるってことなのかな」

拾われたのもトゥバンの神託によるものなら、ラスの元に来たのも神託による。

「そのわりには、お前は自分でトゥバンの声を聞いたことはないのだろ?」

こくん、とメリクは頷く。