他のコアトルは、大きさや能力こそ様々だが、瞳の色は全体的に共通してくすんでいる。
だが目の前のコアトルの瞳は、澄んだサファイアの色---王家の中でも、世継ぎの御子と運命を共にする、特別なコアトルだけが持つ瞳の色だ。

「落ち着け。大丈夫だ」

唸り声を上げるコアトルの首を撫でながら、王子は己の背後に立ちすくむ最高神官など、いないかのように呟いた。
コアトルは王子の声に、安心したように唸り声を止め、大きな顔をぐいぐいと押しつける。
まるで甘えているかのようだ。

「お、王子! まだ祝福は、降りておりませぬ! お戻りなされ!!」

我に返った神官が、ヒステリックに叫ぶ。
コアトルが、王子に押しつけていた頭をもたげ、じろりと神官を睨め付けた。

コアトルに睨まれ、最高神官が後ずさる。
コアトルは貴族や兵士も所有しているが、これほど人に懐くものは珍しい。
珍しいどころか、主とこれほど意思の疎通が図れるコアトルなど、いないものだ。
世継ぎの御子の特別なコアトルは、老齢の最高神官は他にも今まで見てきたが、これほど主と慣れ親しんだコアトルなど、初めてである。

---やはりこの王子は、普通ではない---

この王子が生を受けてからずっと、心に抱いてきた暗い思いが、一層強くなる。

そんな最高神官の思いを見透かしたように、王子は振り返ると、ふん、と鼻を鳴らした。

「呪いの王子に祝福など、降りるもんかい」

ぐ、と神官が押し黙る。
自分たち神殿に仕える者が、散々口にしてきたことだ。