エルタニン伝奇

「あなた様は、少し・・・・・・表情が豊かになったのでは?」

再び怪訝な表情で、ラスはサダルスウドを見た。

「サダルメリクと接するうちに、ちょっと、気持ちが変わってきたのではありませぬか?」

「何を言っているのだ・・・・・・」

不愉快そうに言いながらも、ラスの言葉は尻すぼみになる。

表情がどうとかは、自分ではわからないが、言われてみれば、メリクとは他の者と喋るときより、楽というか。
他愛ない話ができるからだろうか。

楽しい、というほどではないが、きっと、もっと沢山喋るようになれば、それなりに楽しいかもしれない。
今までは見てもいなかったから気づかなかったが、眺めているだけで、なかなか面白い奴ではある。

「・・・・・・まぁ、どんな仕打ちにも、めげずによく働く奴ではあるがな。だが少なくともまだ、俺にとってはそれほど役には立っていない」

ぷい、とそっぽを向いて言うラスに、サダルスウドは微笑んだ。

「ようございます。トゥバンの印がない、ただの捨て子ということで、神殿でも辛い思いをしておったでしょうし、おそらくラス様のお側のほうが、サダルメリクにとっても居心地は良いでしょう。印がないにも関わらず、はっきりとトゥバンに選ばれたあの者は、きっとあなた様のお側にいることに、意味があるはずです」

「トゥバンの神託・・・・・・」

ラスは、戴冠式で己に降りた神託を思った。

---赤と青。血と闇。全ての呪いの解放---