エルタニン伝奇

きっぱりと言い切ったサダルスウドに、ラスは思わず息を呑んだ。

ついさっきまでの、おどおどとした老人はどこへやら、サダルスウドは強い瞳で、真っ直ぐにラスを見つめる。
真の神官とは、こういう者を言うのかもしれない、と思わずにはいられない、圧倒的な力を感じる。

「サダルスウドの名は、伊達じゃないようだな。なるほど、父上が信用した、というのも、わかるような気がする」

ちょと悔しそうな顔はしたものの、長年神官というものを嫌ってきたラスにしては素直に、彼はサダルスウドの力を認めた。
その言葉に、サダルスウドは穏やかに目を細める。

「巫女姫を娶りたいと言う王を支持したことと、その後の出産のこともあって、私の立場だけでなく、王のお立場も危うくなりました」

「出産? 俺のことか? 何かあったのか?」

身を乗り出すラスとは反対に、サダルスウドは眉間に皺を刻んで首を振った。

「それにつきましては・・・・・・語るべきときに語りたく思います。今は、まだ。ですが、そう遠いことではありますまい。氷の美姫探索の結果によりましょう」

怪訝な顔をするラスに、苦しそうな表情を浮かべて言う。
仕方なく、ラスはそれについてはそれ以上突っ込むことはやめた。

ラスの中でも何となく、氷の美姫伝説に惹かれる理由が、わかってきたような気がする。