エルタニン伝奇

「お前が前線に行きたいと言うってことは、やはり氷の美姫は、エルタニンに関係があるのだな」

ラスの言葉に、はっとしたようにサダルスウドが顔を上げる。

「わかりやすい奴だ。それでよくもまぁ、神官の最高位についているもんだな。そんなことでは、秘密など、簡単にばれてしまうぞ」

「こ、このようなこと、前代未聞のこと故・・・・・・。誰にも耐性など、ありませぬ」

「・・・・・・呪いの王子について、か」

ふん、と鼻を鳴らし、ラスは元の長椅子に、どさりと腰掛けた。

神官というものは、ラスを幼い頃より口先だけで誑かし、いいように政治を操ってきた。
己に不利なことを隠すことにかけては天才の神官にとって、おそらく最も知られたくないであろう氷の美姫に関することについて、しらを切り通すことなどわけないだろうに、サダルスウドは明らかに動揺している。

そういえば、ラスがこのサダルスウドに会ったのは、この遠征が初めてだ。
戴冠式の執り行いは、神殿の最高神官が務めるが、サダルスウドというのは最高神官よりも上の位、神官言うところの、最も神に近い地位なのである。
故に、滅多なことでは姿を見せない。

もっともラスから言わせれば、『体のいい蟄居』なのだが。

「サダルメリクも、同行するのでしょう?」

サダルスウドが、恐る恐るといった風に問う。
久しぶりにメリクのフルネームを聞いて、ラスは一瞬誰のことだかわからなかった。
わかったところで、何故今メリクの名前が出るのか。