エルタニン伝奇

「今回の援軍についてだが」

女王が退室し、ルッカサの者がいなくなってから、ラスが口を開いた。

「船上で言ったとおり、氷の美姫探索の援軍ということだ。ルッカサは氷の美姫伝説に、慎重だそうだからな。本来の目的は、ルッカサ側にはおそらく漏れていないが、女王が反対するのも、援軍内容が氷の美姫探索という可能性を感じるからだろう」

「そうですね。氷の美姫探索は、イヴァンは定期的に行っているそうです。大陸内では、その辺の時期なども、掴んでいるのかもしれませんしね」

「しかし、今までの長きに渡って見つけられないものを、何故いまだに捜しているのでしょう? 伝説に、国を挙げて取り組むなど、愚かなことといわれても、仕方ないのでは? しかも、他国に援軍を頼んでまで・・・・・・」

重臣らの言葉に、うん、と頷き、ラスは組んだ手の上に顎を乗せた。

「イヴァンは、国自体は広いが、大部分は人も住めない不毛の土地だ。伝説の中には、氷の美姫を手に入れれば、大地が潤うとかいうものもあるしな。土地に不自由していない我々にはわからんが、イヴァンからしたら、切実な願いなのかもしれん。他の国にも、なかなか魅力的な伝説があるようだ。だが」

ラスは一旦言葉を切り、末席に座るサダルスウドを見た。

「我がエルタニンには、不思議なくらい、氷の美姫に関する話は伝わっていない」

サダルスウドは前を向き、目を閉じたまま黙っている。
重臣たちは互いに顔を見合わせ、頷き合った。