「ラス様、笑顔。とっても素敵です」

嬉しそうに覗き込むメリクに、ラスは動きをなくした。
思わずラスも、まじまじとメリクを見る。

色恋沙汰は苦手だ。
この外見故、言い寄る女も多かった。
適当にあしらい、それなりの経験はしてきたが、誰かに特別な想いを抱いたことはない。

育った環境故か、暖かい感情というものがないのだ。
信用しているのは、コアトルだけ。
人に何かを言われて、嬉しく思うことなどない。
だが今、僅かに感じた感情は何だろう。

「・・・・・・変な奴だ」

愛しく想うわけではない。
だが、他の者とは違う、と感じるのは確かだ。

メリクが懸命に仕えるからではない。
そんな情にほだされるほど、ラスは甘くない。
もっと根本的な何かが、メリクに惹かれている。

メリクはラスを覗き込んでいたことに、初めて気づいたように、慌てて身体を引いた。
そんなメリクを、ラスは初めて、面白いと思う。

「ははっ」

自然に、笑い声が漏れた。
メリクが弾かれたように顔を上げ、再びラスを凝視する。

先程とは違う、それこそ初めて見る、ラスの笑顔。
メリクの鼓動が、跳ね上がった。