エルタニン伝奇

何かどっと疲れて、あてがわれた部屋の寝台に潜り込んだラスは、布団の中の違和感に、上体を起こした。
少しだけ布団をめくって、中にあるものを確かめる。

「・・・・・・何故お前がここにいるのだ」

子供のように丸まって、すやすやと眠っていたのは、メリクである。
メリクはラスの低い声に、ぼんやりと目を開けた。
寝ぼけた目で、しばらくじっと、ラスを見る。

しばしの沈黙の後、メリクの目が裂けるほど大きく見開かれた。
同時に、息を呑んで飛び起きる。

「もも、申し訳ありませんっ!」

この尋常でない狼狽(うろた)えようから、どうやらここで寝ていたのは、メリクの意思ではなかったらしい。
そもそも王城に入る前に、意識を失っていたのだ。
従軍した医師が、ここに寝かせたのだろう。
メリクはラスのお付き巫女ということなので、ラスの寝台にいても、おかしいことはないのだ。

巫女は生涯独身とはいえ、生涯純潔というわけではない。
王のお召しがあれば、夜伽もする。

だがラスは、容赦なくメリクを寝台から蹴り落とした。
小さなメリクは、呆気なく床に転がる。

そのままラスは、メリクに背を向け、ごろりと横になった。
床にへたり込んだまま、メリクは茫然とラスの背中を見つめていたが、やがておずおずと、床に敷かれたマットに横たわった。