エルタニン伝奇

「その巫女様、エルタニンのかたですの? 同行してらっしゃるのよね?」

鱗を戻して言う女王に、ラスはこれまた曖昧に答えた。

「一応は、我が国の者ですよ。我が国の神殿で育ったようですし、私の専属巫女ですので、ま、同行はしておりますがね・・・・・・今は臥せっております」

歯切れ悪く言うラスに、女王が訝しげな顔をする。

ルッカサ王城に到着する直前、極度に緊張していたメリクの体力が、とうとう限界になった。
ラスに放り投げられたまま、うつぶせの状態で必死に掴むところのないコアトルの身体に貼り付いていたメリクだったが、王城上空で滑り落ちたのだ。

幸い下降しつつあったため、元々高度がそうなかったのと、ラスが押さえようとしたため、多少落ちる勢いがなくなったのとで、大事には至らなかった。
が、気を失ってしまったため、近衛隊の手当を受け、今はあてがわれたどこぞの部屋で休んでいるだろう。

「まぁ、でもそうですわね。エルタニンとは、随分気候も違いますもの。女性にとっては、そういった環境の変化というものは、身体に思わぬ負担をかけるものなんですよ」

そんなに繊細な奴でもないけど、という突っ込みは、心に収めておくことにする。
口にするほど、ラスもメリクのことを知っているわけではない。

「とにかく、これにそれほど価値があるのなら、巫女のお手柄というわけですね。女王様にも、ご満足いただけたようですし」

言いながら、鱗を元のように包み、サファイアの横に並べた。

「あら。くださるの?」

「美しいものは、美しいかたに差し上げるのが筋かと」

「ラス様に美しいと言われると、他のかたに言われるよりも、数段嬉しく感じますわ」

再び扇を広げ、女王は艶やかに微笑む。
また色恋方面に話が向きそうで、ラスは早々に応接間を後にした。