エルタニン伝奇

一通りの用意を終え、ルッカサ王城へと進む頃になって、ラスはメリクが所在なさげにしているのに気づいた。
どうやら足のことまで、考えていなかったらしい。

隊列ごとに進んでいく中で、やっと近衛隊長がラスの隣に並び、そっと耳打ちした。

「王。巫女殿は、どうやらどちらにも、乗れないようなのですが」

「そなたが乗せてやれば良いだろう」

素っ気なく言い、ラスはコアトルの背に飛び乗る。
そんなラスに、隊長は慌てて追い縋った。

「それが、巫女殿は異様にヴォルキーやチーリェフを恐れるのです」

乗れないばかりか、触れもしないらしい。
うんざりといった様子で、ラスはメリクを振り返った。

「では、走ってもらうしかあるまい」

無慈悲に言うラスの言葉に、近衛隊長はため息をつく。
長くラスの傍近くに仕えてきた隊長は、もちろんラスと神殿の確執も知っている。
側近的立場で、幼いラスをずっと見てきた隊長としては、神官らの長年に渡る陰湿な虐めのような行為を見てきただけに、もっぱらラス寄りな立場である。

が、たまにこの若い王の徹底した冷たさには、眉を顰めざるを得ない。
神官らを嫌うのはわかるが、即位時につけられた巫女は、何をしたわけでもないだろう。

しかも、まだ幼さの残るような、ほんの子供だ。
毛嫌いしている神官に選ばれた、というだけで気にくわないのかもしれないが、隊長の知る限り、あの巫女は一生懸命ラスに仕えている。
そのような者に、ほんの少しの情もかけないとは、あまりに可哀相なのではないか。