「巫女ではない、というのか?」

しばしの沈黙の後、ラスが静かに呟いた。
メリクが頷く。

「やってくれたな、神官どもめ。まぁ俺を廃したいなら、下手に力ある巫女を、わざわざつけるようなことはせんだろう」

メリクが考えたとおりのことを、ラスは言う。
しかし、メリクの考えよりも、もっと大きな言葉が使われていた。

「神官らは、ラス様を廃そうとしているのですか?」

言葉にしてから、事の重大さに気づき、メリクは震え上がった。
幼いが故なのか、王を廃する=謀殺、と思ってしまう。

メリクは机に両手をついて、ずいっとラスのほうへ乗り出した。

「そ、そんなこと、わたくしがさせません! 今後お食事も、わたくしが毒見致します!」

メリクの勢いに押され、椅子に座ったままのけ反っていたラスは、しばらくきょとんとしていたが、すぐにまた、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「いきなり殺しはしないだろうさ。次の世継ぎも、まだいないしな。だが、今までのように、俺を傀儡に戻したいとは思っているはずだ」

そう言って、ラスは先程読んでいた書類を、とんとんと指で叩いた。
そこにはイヴァンからの、援軍要請の内容が書かれている。

「神官どもが、詳しく他の者に知らせないまま受諾した、軍派遣の申請書だ。指揮官に、俺を指名している。この国自体の戦でもないのに、王自らを指揮官に指名するなど、正気の沙汰とは思えないね。奴らは俺が、息をしていればそれでいいんだ。戦場で死なない程度の重傷でも負ってくれれば、願ったりなんだろうさ」

---イヴァン・・・・・・。何だろう、何か引っかかる---

メリクは書類に目を通しながら、心のざわつきを感じていた。