「ラス様・・・・・・。お、お兄様・・・・・・」

誰が生きているのか、わからない。
もしかしたら、ラスが倒されて、サダクビアが生きているかもしれないのだ。
声を出すのは躊躇(ためら)われたが、我慢できずにメリクは泣きながらラスを呼んだ。

「お兄様・・・・・・どこ?」

しゃくり上げながら辺りを探るメリクの耳に、ばさ、という羽音が聞こえた。
はっとして振り向くと、少し離れたところに、大きな影が見える。
コアトルだ。

メリクは慌てて、影に走り寄った。
コアトルが生きているということは、ラスも生きているはずだ。
世継ぎのコアトルは、主と運命を共にする。
つまり、主が死んだとき、コアトルもまた、死に至るのだ。

逸る気持ちを抑えながら、コアトルに駆け寄ったメリクは、その前で蹲る人影に足を止めた。

「サダルスウド様・・・・・・」

コアトルの前で、サダルスウドは何かを集めていた。

「ご無事であったか」

顔を上げたサダルスウドの手元に視線を落としたメリクは、思わず口元を押さえた。
黒い液体にまみれた、銀色の塊。
左の首筋から、右腰辺りで真っ二つにわかれている。

「うう・・・・・・」

メリクは必死で吐き気を堪えた。
最早ヒトの形を成していないが、あの塊は、紛れもなくサダクビアである。