そもそもラス・アルハゲは、生まれ落ちる前から慣例を破っていた。

まず先代王が自らの専属巫女を王妃として迎えたことから始まり、巫女の腹から産まれたこと、また、双子であったこと。
双子自体は珍しいことではないが、世継ぎが産まれたときのみ現れるという、サファイアの瞳のコアトルも、二体現れたというのだ。

ただでさえ巫女を王妃に立てることに反対だった神官たちは、これはトゥバンに仕える巫女を汚した呪いだと騒ぎ立てた。
夜伽をする巫女もいるにも関わらず、である。

その後ほどなく、王と王妃が相次いで亡くなったため、呪いの噂はより真実味を帯びる。

双子の片割れは、神官たちが早々に闇に葬ったため、ラスはその存在を知らない。
己が双子であったことも、知らないのだ。

だが神官らは、ラスを呪いの末に産まれてきた、呪いの御子だと、ずっと恐れてきた。
神官皆のそういう態度が、態度に出ないわけはない。

幼いラスは、王が亡くなったからといって、すぐに王位に就けるわけもなく、この国の成人である十六になるまでは、最高神官と前王の弟が、摂政という形で政(まつりごと)を行っていた。
まだ幼く、力がないということと、呪いを被っているということで、神官はことさらラスを軽んじてきた。

そういう状態が十六年続き、力をつけた神官らは、己の立場に酔いしれ、いつしか呪いのことなど、ほとんど忘れてしまっていた。
が、成人を迎えたラスの即位の儀式に臨んだ神官らは、そこでまた、呪いを再確認せざるを得なくなった。

次期王である王子は、森の奥の神殿で、最高神官の他、五人の神官より祝福を受ける。
神官らは錫杖の鈴を打ち鳴らし、己の気を極限まで高めて、トゥバンからの祝福を己が身に降ろし、それを一人ずつ王子に伝える。
五つの祝福を授かった後、先代王より譲られし王家の宝剣を授けられ、王子は受け取った宝剣にあしらわれたスターサファイアを額に当てる。
最高神官による、王位継承の文言が告げられると、それをもって、王子は王となる。

そういった順序を、ラスはことごとく打ち壊した。
コアトルが儀式の最中に騒いだのも初めてなら、トゥバンから降りた祝福が一つだけ、というのも初めてだ。

しかもあの後、五人の神官は、皆正気が戻らないまま、息絶えたのだ。