学生さん

 あたしが抱擁(ほうよう)を解くと、互いに付けていた香水の香りが混じり合って漂う。


 あたしたちは笑みを溢(こぼ)し合った。


 もう夢を見ていられるような年じゃないのかもしれない。


 だけど、あたしの心はまだときめいていた。


 騒ぐような感覚さえある。


 確かに桜の花が咲くのはほんのわずかな期間で、すぐに散ってしまうのだが……。


 でも、あたしの想いはきっと謙太に届いているはずだ。


 色鮮やかな花弁をハラハラと落としていく桜の木にオーバーラップするようにして。


 終了式の後、モモ研で祝賀会があるのだが、あたしはその日は彼と一緒にいたいと思っていた。


 こんなに彼との時間を共有したいと思えるのは初めてだ。


 深呼吸し、春の暖気を感じ取る。


 あたしたちは並んで歩きながらも、自然と謙太のアパートの方に足が向かった。