の単行本が」


 ――そう。おめでたいわね。


「ああ。俺としても何かやっと春が来たみたいで、嬉しいよ」


 ――今、どこにいるの?家?


「違う。実はね、君を待ってたんだ。今、大学の正門前にいる」


 あたしがふっと正門の方に目をやると、長袖のポロシャツにジーンズ姿の謙太が立っているのが見えた。


 あたしはケータイを切って、フリップを閉じた後、着ていたスーツを窮屈に感じながらも、彼のいる方へと真っ先に走っていく。


 そして謙太と抱き合った。


 口付けを交わす。


 誰も見てないと思っていたし、見られていても平気だ。


 あたしは彼の頑丈な二の腕に抱かれながら、院に入学したここ五年間のことを思い描いた。