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「もちろん受賞後第一作は書いたんでしょう?」


「ああ。四百五十枚のミステリーを一作書き下ろした。これがヒットすれば、俺は確実に文壇で名が売れるし、これから先、本を企画出版で出せるようになるって思う」


「順調ね。……あたしももうすぐ修論書くつもりだけど」


「枚数はどのぐらい?」


「一応二百五十枚以上でテーマは決めてあるわ」


「それを出したら、いよいよ博士課程か」


「ええ。多少緊張してるんだけど、この葛藤の時間は無駄にならないって思っててね」


「文学部で大学院の博士まで行ったら、研究職ぐらいしかないぞ」


「あたしはそれを望んでるの」


 あたしがそう言って、開いていた海苔弁当を食べ続けた。


 謙太も唐揚げ弁当を頬張る。
 

 春は麗(うら)らかだった。