涼の視線が痛かった。
「…っ……」
「何で隠すの」
何でって……
何でだろう…―――?
とっさにだけど、見られたくないって、思ったの。
涼の腕をゆっくりどかして、一歩だけ前に足を踏み出した。
……0の距離から離れたくて。
「時々、自分がわからなくなるんだ」
右手の拳を左手で包み込む。
卑怯なことしてんのを見ると、自分をおさえられなくなる。
今日だって。
遥がバットで殴られたのを見た瞬間、頭に血がのぼって。
頭ん中が真っ白になった。
「自分が怖い……」
気がついたら、みんな倒れてた。
気がついたら、私ひとりだけが、立っていた。
このままじゃ、あたし。
――…いつか怒りに任せて人を殺してしまうかもしれない。
そう言って黙った。



