「ありがとな、泉」
ブンブンと頭を横に振った。
最初は遥のために殴っていたのに。途中から自分のためになっていた。
自分の怒りを静めるため…――。
殴っていた時は全然痛くなかったのに、正気を取り戻した今はすごく、痛い。
拳も、手も。
そして――胸も。
「大丈夫か?」
「大丈夫……。遥こそ」
「俺?俺はへーきっ」
ニッと笑っているけれど、遥の左手は小刻みに震えていて。力が入らないようだ。
多分、折れてる。
大丈夫なわけがない。
「なあ」
「…………」
「これって、雅のしわ―――」
「言うな」
これって雅の仕業なのかな?
そう言おうと思っていたけど、遥の声の力に引っ込んでしまった。



