夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

「何度も名前呼ぶなよ」


恥ずかしいだろ、その声に、あたしの聴覚は根こそぎ奪われた。


でも、根こそぎ奪われたのは聴覚だけじゃなかった。


振り向いて、無意識に声を漏らしていた。


「あっ……」


女にしては背の高いあたしでさえ、このひとだかりを抜けるのに苦労したっていうのに。


彼はするすると誰ともぶつかる事なく、すんなり抜けて来る。


そして、やかましいマルコメとあたしの隙間にすっと入って、最前列に立った。


彼は掲示板をじっと見つめたあと、少し間を置いて、無表情で呟いた。


「……ほんとだな。一緒のクラスだ」


その端正な横顔を見た瞬間に、一瞬だけ、心臓が時を止めたような気がした。


うざすぎるひとごみなのに。


周りはぐるりと人だらけなのに。


あたしの目には、その横顔だけが切り取られたように映っていた。


あたしより、頭半分だけ高い背丈。


真新しい、黒光りする学ラン。


どこか猿っぽい顔立ち。


高い鼻。


何よりも、優しい輝きを放つ瞳。


なんて独特な輝き方をする瞳なんだろう。


決して、特別イケメンではないし、これくらいの男はそこらにゴロゴロ転がっているはずなのに。