「響也って、ひまわりみたいだと思わない?」


甲子園から帰って来た日、茜空の下でじゃれ合う南高野球部員たちを見つめながら、花菜ちんが言った。


最初は全然思わなかったし、なんで突然そんな事を花菜ちんが言ったのか意味が分からなかった。


「えー? 思わんなあ。補欠は夏の青空みたいじゃんか!」


「青空あ? うっそー。違う違う。ひまわりだよ、響也は」


「なにー! どこがじゃ!」


あたしが挑発するように詰め寄ると、花菜ちんは苦笑いして言った。


「大好きな翠ちゃんに真っ直ぐなところが」


「……え?」


「知らないの? 翠ちゃん」


「何がだね?」


可笑しそうに笑って、みんなとたわむれる補欠を、花菜ちんは指さした。


「ひまわりってね……」


毎日、毎日、朝から晩まで、太陽ばかり見つめてるお花なんだよ。


東から昇ると東、真上に昇れば真上、西に傾けば西。


一日中、ひたむきに太陽を追いかけてる、健気なお花なんだよ。


「そういうとこ、ひまわりみたいだと思わない?」


知らなかった。


花菜ちんが教えてくらなかったら、一生、知らないままだったんだと思う。











知らなかった。


補欠が実は頑固で嫉妬深くて、あたしに負けないくらいわがままだったこと。


知らなかった。


補欠が実はいじわるで、その優しさに終わりがなかったってこと。


知ってるつもりだったけど、実際はまだ知らない事だらけだった。


あたしは、補欠の彼女なのに。


知っていたのは彼のほんの一部で、ほんの一握りだった。