夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

「ゆっ……勇気ーっ!」


捕って……捕って!


お願い。


……捕って!


その一球に、あたしは人生をかけてんの。


この恋と一緒に、かけてんの。


一瞬、風が止まり、そして、県立球場が静寂に包まれる。


あたしはぎゅっと目を閉じた。


瞼裏に浮かんだのはいくつもの彼の微笑みで、それは猛烈なスピードのスライドショーのようだった。


風が頬を撫でる。


彼が振り向く。


彼が微笑む。


優しい目を半分にして。


「……ゲーム、セット」


先輩の声がして、弾かれたように目を開けた。


青空を流れる、真っ白な雲。


白球が、勇気のグローブにすうっと吸い込まれた。


ドクン、と鼓動が脈を打つ。


白球が入ったグローブを、勇気が高々と突き上げた。


3塁側応援スタンドを、溜息と悲鳴が覆う。


1塁側応援スタンドが、歓喜にわき、どよめく。


グローブを突き上げたまま、勇気が全速力でマウンドに向かって走って行った。


イガグリが、岸野くんが。


ファーストが、セカンドが、レフトが、ライトが。


次々と駆け寄り、抱きつき、補欠をもみくちゃにしながら、空に向かって人差し指を突き上げる。


たぶん、顔を腕で覆いながら、健吾が泣いていた。


県立球場に試合終了のサイレンが鳴り渡り、それは夏の乾いた空気に振動しながら、長く響いた。


みんなが歓喜に狂う中、あたしは先輩の腕の中で、フェンスに指を絡めながら声を殺して泣いた。


長かったね、補欠。


今日まで、長かったね。


補欠がどんなに努力して来たのかが分かるだけに、涙が止まらなかった。


「勝利しました、南高校の校歌斉唱です」


晴れの日も、曇り空の日も、どしゃぶり雨の日も。


風の日も、雪の日も。