夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

「あ……」


先輩が目の色を変えて、言葉を飲んだ。


カン!


金属バットの音が耳を突き抜けた。


白球が空高く上がる。


ぐんぐん、伸びる。


陽射しを受けて輝きながら補欠の頭上を超えて行った打球が、バックスタンドに向かって、伸びる。


ぐわりと膨らんだ歓声も、頬を撫でる熱い風も、全部がスローモーションだった。


マスクを脱ぎ捨てて立ち尽くす健吾も、伸びる白球を目で追いかけて立ち尽くす補欠も。


全部、時間が止まったかのように静止したように見える。


放物線を描く白球と、南高の夏を左右しようとしている背番号8以外は、全部。


ガシャン……。


フェンスを握りしめたあたしを、先輩がとっさに支えた。


「おっと! 危ねえなあ」


9回の、裏。


ツーアウト、満塁。


白球は、青空を駆け抜ける。


先輩が呟く。


「いよいよだな」


期待を孕んだ、声だった。


あたしはゴクリと息を飲んだ。


眉をひそめ、唇を噛んで、瞬きすらできなかった。


ぽつり。


ひと粒の涙が、頬を伝い落ちる。


強い風が吹いた。


真夏の県立球場に大きな放物線を描いた白球はバックスタンド手前で力尽き、なだらかに落ちて行く。


勇気が空を、仰ぐ。