夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

彼女になれたこと事態、奇跡みたいなものなのに。


それですら本当は夢だったんじゃないかって、いつも不安で。


野球というスポーツを恨んだ日もあった。


一年生、二年生、三年生になって、一年ごとに補欠は男の子から男の人になった。


肩幅も背中も広くなって、可愛かった童顔も気付けばすっかり大人びた。


真っ直ぐに前を見て走り続ける補欠が眩しかった。


だから、寂しくて怖くて、悔しくて。


もうエースなのに、ずっと「補欠」って呼び続けていたの。


一年生の時は同じスタートラインを飛び出したはずなのに、気づくと補欠はずっと先を走っていた。


追いかけても、追いかけても、その距離は拓く一方で。


不安になる一方通行だった。


特に。


「野球してる時の補欠は、すごく遠くに感じるんだ」


必死に手を伸ばしても、触れることができない気がして。


一瞬、瞬きをした瞬間に補欠が居なくなる気がして。


野球してる時の補欠は、眩しすぎる。


強烈な光線を放っていて、近づいちゃいけない気がしてくる。


「先輩。あたし、ときどき思うんだ」


「うん」


「いつか、補欠に手が届かなくなるんじゃないかって」


野球してる時の補欠は、あたしとは別世界にいる気がするから。


「でもね、先輩」


あのね。


だけどね。


「野球してる時の補欠は、宇宙一、かっこいいんだよ」


誰も叶わないくらい、かっこいいんだよ。


あたし、知ってるんだ。


補欠が努力家だってこと。


みんなに慕われてること。


誰よりも辛抱強くて、優しくて……眩しいことも。


せきを切ったように、あたしは大声で泣いた。


「補欠に手が届かなくなったら、あたしっ……どうすればいいのさ」


そんな事にでもなったら、死んでしまうかもしれない。


補欠のいない毎日に、あたしは耐えられるだろうか。


「あたしさ、先輩……あたしね」


あたしは声を絞り出して、先輩の腕を掴んだ。