夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

今日まで、どれくらい祈っては願って来ただろう。


補欠がエースになれますように、とか。


補欠が甲子園に行けますように、だとか。


涙が邪魔をして、声がつまる。


でも、あたしはマウンドに向かって叫んだ。


「勝ちなさいよ!」


ふと、力が抜けて、フェンスから両手がすべり落ちた。


そんなあたしをとっさに支えてくれた先輩に、訴えるように言った。


「先輩……あたし、怖かったんだよね」


「怖い?」


何が? 、と先輩がタオルであたしの涙を拭いた。


「野球してる時の補欠はね、すごく遠くに感じるんだよ」


優しい目をキラキラ輝かせてさ。


周りなんか全く見えてないんだ、きっと。


野球してる時の補欠は、遠いよ。


遠すぎる。


知らない人に見える。


例えば。


今ここで、野球かあたしかどっちかを選べ、そんな選択を補欠な投げたとして。


補欠はそのグローブでどっちをキャッチして、その左手でどっちを投げ返して来るのだろう。


それを考えると、やっぱり怖い。


授業が終わると別人みたいになって、スポーツバッグを背負って、教室を飛び出して行く彼の姿が脳裏に浮かんだ。


その後ろ姿を見るたびに、怖かったの。


毎日、怖かった。


置いて行かれるような気がして。


あたしなんかいつか忘れられてしまう気がして。


補欠が遠い存在になってしまう気がして。


補欠はあたしにとって、あの青空みたいな存在だったから。