夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

今更になって、気づいたんだけど。


あたしはずっと、怖かったのかもしれない。


「怖かったんだ……」


呟いて、あたしはゆっくりと視線をマウンドに向けた。


補欠が大きく振りかぶって、白球を投げる。


カ……ン!


バッターが打ち返す。


そのボールはぐんぐん伸びて、ファウルボールになった。


応援スタンドが安堵の溜息と、悔しさを交えた咆哮に揺れた。


試合に出場している張本人でもないのに、観戦して一喜一憂する観客たち。


それなのに、張本人である補欠は顔色ひとつ変えず、ひょうひょうとしていた。


「かっこいいなあ、補欠。かっこいいよねえ」


「えー。なんだ、今度はのろけんのかよー」


クスクス、冷やかすように先輩は笑って、あたしの体を揺らした。


学校での制服姿の補欠はどこか少し頼りなさげで、物静かで、口数も少なくて。


授業中もいつも頬杖をついて、窓の外をぼんやり眺めてばかりいて。


雨降りの日はムスッとして、晴れの日は瞳を輝かせて。


そんな補欠がすごく近くに感じて、嬉しくて、幸せで。


「どうしよう、先輩。補欠、超かっこいい! あんなイイ男、いねえよ! なっ、先輩!」


「えー、そうかあ?」


おれのほうが、と言いかけた先輩の胸をドンと小突いた。


「そうなんだよ! 今、あたしがそう決めたの! 補欠、ミラクルかっこいい!」


カン!


背中がゾクッとした。


バッターの打ち返した一球が、イガグリのグローブに当たりポトリと落ちた。


乾いた土の上で息の根を止められたように静止した。


慌てたイガグリが態勢を立て直してボールを掴んだけれど、


「……間に合わねえな」


先輩が呟いた直後、打者が1塁ベースを駆け抜けた。


「ツーアウト、満塁」


あたしは先輩の腕から飛び出して、フェンスに飛び付いた。