夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

思わぬ壁にぶつかって、歯を食いしばって乗り越えて、涙をこらえて泥だらけになって、ボロボロになっても立ち上がって。


本当はしんどいはずなのに、何度転んでも、転んだ数だけ立ち上がって。


そんな補欠を見て来たから、勝たせてあげたくてたまらなくなった。


その時、思いがけない事が起こった。


「……バカー!」


健吾が3塁に投げたボールが大きく反れて、ランナーがひとつ駒を進めてしまったのだ。


「岩渕も動揺してんだな。勝ちたくて、負けたくねえから」


「健吾……」


あたしは、タオルケットの端を握りしめた。


しっかり、健吾。


このままじゃ負けちゃうかもしれない。


「何、焦ってんだろうな。何も焦る必要ねえのにな」


人間てのは愚かだな、先輩が呟いた。


「ひとりじゃねえのに。崖っぷちに立たされると周りが見えなくなってさ。ちゃんと、仲間はいるのにな」


茫然と立ち尽くす健吾に、仲間が集まって行く。


「野球って、ひとりじゃできねえんだ。ひとり欠けたら勝つ前に、負ける事も出来ないからな」


ひとりの気持ちが欠けたらなおさら、と先輩が言った。


「だから、あいつらは大丈夫だよ。南高はひとりも欠けてないし、気持ちだってひとつだ」


ほら、な、と先輩がグラウンドを指さした。


胸がいっぱいになった。


このピンチだってのに、この緊迫した状況だっていうのに。


健吾の元からグラウンドに散らばって行くみんなの笑顔は、


「きれー……」


降り注ぐ太陽に照らされて、キラキラ輝いて見えた。


その後、南高はひとつアウトを取ったものの、緊迫した状況は変わらないどころか、さらに追い詰められた。


ワンアウトで、ランナー2,3塁。


「4番か。さて、どうする、岩渕」


まるで挑発するかのように、先輩が呟く。