夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

「だって! だって!」


打者は1塁どころか、あれよあれよという間に2塁まで行ってしまった。


もし、あいつが還って来たら同点になってしまう。


「野球ってさ、こういうスポーツなんだよ。最後まで何が起きるか分かんないし、何が起きても不思議じゃない」


困ったことになった。


あたしはこのスポーツを完全に舐め切っていたのかもしれない。


こんなんじゃ、結果を見届ける前に気絶してしまいそうだ。


「もう……見とれんわ」


とっさに目をそらしたあたしに、


「見とかないと損するぞ」


と先輩はわくわくした声で言って来た。


「さすがだな。さすが、夏井だ」


恐る恐る顔を上げて見ると、先輩は笑っていた。


こんなピンチを前に、目を輝かせて真っ直ぐ補欠だけを見て笑っていた。


「この状況なのにあそこまで平常心でいれるエースなんか、そんなそんな居ねえよ」


内心は尋常じゃないくらい焦りまくってんだろうけど、と先輩が続ける。


「でも、見てみろ。あいつ、顔色ひとつ変えてねえだろ」


絶対、苦しいはずだよ。


しんどいに決まってる。


「あれが、夏井のすげえとこなんだよな」


先輩は言った。


今、夏井はものすごく動揺してるだろう、と。


でも、必死に隠してるんだ、と。


「勝たせてやりてえよな」


「……うん」


勝たせてあげたいと思った。


一年生の時からずっと、夏も冬もひたむきに野球に打ち込んで、朝も日が暮れても、ひたすら。