「ほっといたら朝まで走り続けんじゃねえのかって、心配になってさ」
クスクス、先輩が笑う。
「見てられなくてさ、声掛けたんだ」
――朝まで走り続ける気か?
「あいつ、立ち止まっておれのことじっと見てた。無表情でな」
――腹減ってないか?
――帰ろうぜ
――喉渇いただろ?
「何を聞いても、何も反応なくて。頷くわけでも、首を振るわけでもなくて。ただ、グラウンドに突っ立ってさ」
「うん……それで、どうなったの?」
「とっつきにくいやつだなー、扱いにくいやつだなー、困ったなって。まあ、おれなりに悩んだよ。で、出た一言が」
――一緒に行くか、甲子園に
「そしたらな、あいつ。今までの無表情が嘘だったみたいに、笑ったんだ」
――はい……はいっ!
「なんつう顔すんだよって。なんつう無防備な笑い方するんだよって。その時、初めて見たんだ。夏井の笑顔」
そんな事があったのか。
あたしは、ほとんど教室での補欠しか知らないから、何も分かっていなかったのかもしれない。
今こうして決勝戦のマウンドに補欠は立っているけど。
ここに登り詰めるまで、きっと、あたしには分からないような壮絶な葛藤があったにちがいない。
「たった一言、甲子園、て口にしただけなのにな。それだけで、笑ったんだ。夏井」
それくらい、人の心を動かすものが甲子園という場所にはあるんだと思った。
そして、相澤先輩というひとりの人間にも。
「それさあ、先輩だったからだと思うよ。だから、笑ったんだよ、補欠」
あたしが言うと、先輩は「えー」と首をかしげた。
「補欠、先輩に憧れまくってるからさあ。好きなんだって、先輩に少しでも追いつきたいんだってさ」
「追いつくどころか」
先輩が声を震わせた。
「もう、とっくに追い越されてるよ」
クスクス、先輩が笑う。
「見てられなくてさ、声掛けたんだ」
――朝まで走り続ける気か?
「あいつ、立ち止まっておれのことじっと見てた。無表情でな」
――腹減ってないか?
――帰ろうぜ
――喉渇いただろ?
「何を聞いても、何も反応なくて。頷くわけでも、首を振るわけでもなくて。ただ、グラウンドに突っ立ってさ」
「うん……それで、どうなったの?」
「とっつきにくいやつだなー、扱いにくいやつだなー、困ったなって。まあ、おれなりに悩んだよ。で、出た一言が」
――一緒に行くか、甲子園に
「そしたらな、あいつ。今までの無表情が嘘だったみたいに、笑ったんだ」
――はい……はいっ!
「なんつう顔すんだよって。なんつう無防備な笑い方するんだよって。その時、初めて見たんだ。夏井の笑顔」
そんな事があったのか。
あたしは、ほとんど教室での補欠しか知らないから、何も分かっていなかったのかもしれない。
今こうして決勝戦のマウンドに補欠は立っているけど。
ここに登り詰めるまで、きっと、あたしには分からないような壮絶な葛藤があったにちがいない。
「たった一言、甲子園、て口にしただけなのにな。それだけで、笑ったんだ。夏井」
それくらい、人の心を動かすものが甲子園という場所にはあるんだと思った。
そして、相澤先輩というひとりの人間にも。
「それさあ、先輩だったからだと思うよ。だから、笑ったんだよ、補欠」
あたしが言うと、先輩は「えー」と首をかしげた。
「補欠、先輩に憧れまくってるからさあ。好きなんだって、先輩に少しでも追いつきたいんだってさ」
「追いつくどころか」
先輩が声を震わせた。
「もう、とっくに追い越されてるよ」



