夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

え、と顔を上げると、若奈ちゃんはフフと吹き出してグラウンドを指さした。


その先には、補欠の姿があった。


「彼女にここまで想われてる男の子、きっと居ないよ。だから、夏井くんがにくたらしーい」


アハハ、と笑って泣いた若奈ちゃんは、忙しい女性だと思った。


だって、今度は本気で泣き出してしまったのだから。


「でも、今日の夏井くんの投球は……見てられないくらい健気で」


泣いたり、笑ったり。


「すごいのよ、夏井くん。今日の夏井くん、すごいんだから」


笑ったり、今度は泣いたり。


「夏井くんがどんな子なのかを知ってるだけに、見てて切なくて。もう……胸がいっぱいで。私……」


本当に、今日の若奈ちゃんは本当に大忙しだ。


「あっ! 試合が始まってる! 私、あっちに戻るね!」


と応援スタンドに若奈ちゃんが戻って行った時、試合は7回を終了していた。


8回、表。


追加点を入れたのは南高校で、表から裏に変わった時、それまで無言だった先輩が囁くように漏らした。


「ほんとはさ、もう、限界なんかとっくに超えてると思うんだ」


「え?」


先輩が見つめる先には、マウンドに立つ補欠の姿があった。


補欠が帽子のツバをつかんで、ぐっと深くかぶる。


「しんどいとかそんなの、とっくに超えてんじゃないかなあ」


補欠が大きくふりかぶる。


白球が流れるように、健吾のミットに吸い込まれる。


バットが空を切る。


「相変わらず、鬼だよな。監督」


先輩が見つめる先に、光が降り注いでいた。


三振。


「初戦からずーっと、夏井ひとりに投げさせてんだから」