夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

何も見ていないようで、でも、補欠はちゃんと見てくれていたんだって。


うれしかったんだ。


補欠に父の話をしたのは片手で足りるくらいだったはずなのに。


ちゃんと、あたしを分かっていてくれたんだな。


あたしが、父っ子だってこと。


甲子園に連れてく、って誓ってくれたのが他の誰でもない父だったから。


嬉しくて、涙が止まらなかった。


その時、もしかしたらとハッとした。


「補欠」


あたしたちを巡り逢わせてくれたのは、父だったんじゃないかって。


そう、思った。


補欠の背後で、夏の陽射しが細かく輝いていた。


「かけて」


あたし、かけてみようと思うんだ。


もし、この出逢いが、生まれて来た時にはもう決まっていたものだったとして。


だから、結果がどうなろうと、あたしの気持ちは変わらないから。


あたしは、補欠の一球に、全てをかけようと思ったの。


「補欠の一球に、あたしたちの運命、かけて!」


この先にどんな困難が待ち受けていようとも、あたしたちなら大丈夫だって、証明して。


あたしたちの出逢いが、積み重ねてきた恋が、運命に導かれた必然的なものだって。


「翠」


補欠の目が、まっすぐ、あたしを羽交い絞めにする。


吸い込まれてしまいそうで、ドキドキした。


補欠はあたしに「かけるよ」と囁いて、くれた。


フェンスの網目から、あたしの額に、そっと。


触れたのか触れていないのか分からないくらいに、優しくて静かなキスだった。


でも、今日の補欠はいつもとは違っていた。


キスをくれたあと、いつもははにかむくせに。


今日は微かに微笑む事もなく、キリリとした目をして真っ直ぐ立っていた。


「6回、始まるから。また後でな」