夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

県立球場に到着したのは、太陽が一番高いところに昇った頃だった。


「うーん」


ハンドルにもたれて、フロントガラスの向こうをじーっと見つめながら、先輩は何かを考え始めた。


そして、おもむろに携帯電話を開いて、誰かに電話をかけだした。


「……ああ、おれ。今、着いたんだけど。今、何回? 点数は?」


試合の経過を確認しているようだ。


「5回裏か」


耳から携帯電話を離して、先輩があたしに微笑む。


「お守り、渡せるかも」


小声で言って、先輩は再び話し始めた。


「じゃあ、悪いけど頼むよ。この回が終わったら、グラウンド整備に入るはずだから、その時、イケそうだったら夏井に伝えて。ライトの奥に来いって」


じゃ、と会話を終えた直後、先輩はまたすぐに別の人物にコールしたようだった。


その様子を、あたしはぼんやりと眺めていた。


たかが小一時間ほど車に揺られていただけなのに、あたしの体力は確実に消耗していた。


車とバスの間を、見た事のないユニフォームの球児たちがすり抜けて行った。


「淳平か、おれだ」


先輩が話している相手は、一年前、南高を卒業した本間先輩だった。


「実はさ、もう中央入り口から入れなくなってるみたいでさ。今、ライトの方に行くから、中から門の鍵開けてくれないか」


どうやら、入場時間を過ぎると、入場口は閉められてしまうらしい。


「ああ、頼むよ。ちょっといろいろあって、時間に間に合わなかったんだよ」


フフ、と笑って電話を終えた先輩は、長谷部先生から持たされた医療用の飲料水と保冷剤が入った鞄を肩に掛けて、


「じゃ、行きますか」


とあたしを抱きかかえた。


直射日光がキツくて、あたしはタオルケットに顔をうずめた。


あちこちで、蝉の泣き声が交差していた。


「あの、試合が終わるまで入れない事になってるんですけど。関係者なら、証明書の提示、お願いします」


生意気そうな口調に反応して顔を上げると、浜風で錆びた門の前に、背番号なしの南高校のユニフォームの球児が、まるで警備員のように立っていた。


一年生部員だった。