夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

補欠と一緒に初詣に行った、八幡神社のお守り。


――ねえねえねえ! 野球の神様のお守り、売ってる?


神主さんに聞いた。


――甲子園に行ける黒魔術がかかってるお守り、くれ! いくら?


白髪の神主さんは可笑しそうに笑って、たくさんあるお守りの中から迷わずにそれを選んで、あたしに差し出した。


――それなら、これがいいかな。効果てきめん


朱色の生地に、真っ白な糸で【必勝】と刺繍された縦に長いお守りだった。


――ふうん。必勝、ねー


ありきたりだなー、とぼやくあたしに神主さんは言った。


――大丈夫。いるからね、神様は。いますよ、神様は









「これ? このお守り?」


引き出しから取り出してもらったお守りを先輩から受け取って、静かに手の中におさめた。


「うん。これ、野球の神様が宿ってんだって」


買って来たその日に、首から下げれるように紐を縫い付けたお守りは、本当は夏の大会が始まる直前に補欠な渡そうと思っていた。


でも、こんな事になって、渡しそびれていたのだ。


「ねえ、先輩」


「うん」


あたしはお守りを先輩に見せながら言った。


「これ、補欠に渡せないかな……渡す事、できないかなあ」


「えっ……今日?」


「あ……そっか。もう、時間的に無理だよね」


少し黙り込んだあと、先輩は


「いや、もしかしたら」


と言ってにっこり笑った。


「保障はできないけど。一か八か、持って行こう。落とさないように持ってて」


あたしは頷いて、先輩の腕の中でお守りを首に下げた。


「ちゃんと帰って来るんだよ、翠」


母の声は震えていた。